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【助産師執筆】妊娠24週
そろそろ中期検査!
妊娠糖尿病ってどんな病気?

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そろそろ妊娠中期、赤ちゃんに会えるまでの折り返し地点!赤ちゃんの様子が知りたくて、待ち遠しかった妊婦健診も2週間に1回の間隔になります。病院のスタッフもこまめに皆さんの様子が知れることを大変嬉しく思っていますよ。
この時期の赤ちゃん、だいたい体重は500g~800g程度※1です。子宮の大きさもおへそから指2~3本下まできて、子宮がしっかりとおなかの上から触れるようになってきます。また、体も少しずつ丸みを帯びてくるので、次回のエコーでお顔が見えた時はちょっとふっくらと赤ちゃんらしくなった顔が見えるかもしれませんよ。

その他にも、赤ちゃんの耳もよく聞こえるようになってきて、反射神経も発達してくる頃です。大きな音を立てたり、おなかの上をトントンとすると大きく動くようになります。このような動きを「キックゲーム」と言われたりもしますね。

そして、妊娠中期では、妊婦健診では”中期検査”※2が行われます。中期検査の詳しい内容はまた来週のコラムでお伝えしようと思いますが、妊娠24〜28週ごろに実施される検査です。その中でもメインの検査が血液検査です。この検査では「貧血になっていないか?」ともうひとつ、「血糖値のコントロールができているか?」という2つの視点で行います。今回は血糖値のコントロールに関連した「妊娠糖尿病」についてお話しします。

  • 血糖は体のエネルギー源!
  • 血糖をコントロールするインスリン
  • 妊娠中はインスリンの働きが悪くなる
  • 妊娠中の糖尿病に要注意
  • 早期発見のためのスクリーニング検査
  • 大切なのは食事と運動

血糖とは?

人間の体、特に脳などの神経細胞が正常に働くためにはグルコース(主にブドウ糖)が必要です。このグルコースは血糖として血液中を駆け巡り、さまざまな細胞にエネルギーを届けていきます。
食事をすれば血糖値(血液中のグルコースの量)が上がり、日常的な細胞の働きや運動で細胞がエネルギーを消費すれば血糖値は下がる仕組みになっています。
また、危険にさらされると瞬時にエネルギーを出したり、しばらく食事が摂れない状態でもエネルギーを維持するために、食事や運動以外でも血糖値を上げたり下げたりする仕組みがあります。

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血糖値を下げるインスリンの働き

血糖値を上げるホルモンには、グルカゴンやアドレナリンなどたくさんの種類がありますが、血糖値を下げるホルモンは「インスリン」ただ一つです。
唯一の血糖値を下げるホルモンであるインスリンが働くと、余分な血糖を脂肪や肝臓など体のあらゆるところに蓄積させ、血糖値を正常に保ってくれます。

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妊娠中のインスリンの働きの変化

妊娠中は、この唯一の血糖値を下げてコントロールするホルモン「インスリン」が体の中で上手く働かなくなります。※3
これをインスリン抵抗性と言われることもあります。これは、おなかの中の赤ちゃんにより多くのエネルギーを届けてあげるために起こります。

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妊娠糖尿病とは※4

妊娠中は、このインスリン抵抗性が高まり過ぎると、お母さんの血糖値が高い状態が続くことで、お母さんの体や赤ちゃんの発育に悪さをしてしまうことがあります。妊娠糖尿病には大きく分けて「妊娠糖尿病」「糖尿病合併妊娠」「妊娠中の明らかな糖尿病」の3種類があります。
妊娠をきっかけとして起きた血糖値が上手くコントロールできない状態(糖代謝異常)を「妊娠糖尿病」や「GDM(Gestational Diabetes Mellitus)」といいます。また、もともと糖尿病になっていた方が妊娠した場合には、妊娠糖尿病ではなく「糖尿病合併妊娠」と診断されます。
その他にも、実際に、糖尿病になっていたけれども気づかずに妊娠された方もいらっしゃいます。妊娠して初めての検査で重い糖尿病症状が出ていて、妊娠前から糖尿病であったのでは?という経過で見つかります。そのように妊娠前の糖尿病の有無は分からないが重度の糖尿病の妊婦さんを、「妊娠中の明らかな糖尿病」として管理したりもします。

妊娠糖尿病になる原因や症状

妊娠糖尿病の原因としては、胎児にたくさんの栄養をあげるためにインスリン抵抗性が高まることが挙げられます。ほとんど自覚症状がないことが多く、妊娠中の尿検査や血液検査で見つかることがほとんどです。


妊娠糖尿病が引き起こすリスク

妊娠糖尿病が与える影響は、母体に与える影響と赤ちゃんに与える影響に分けられます。

●母体に与える影響

・妊娠を起因とした高血圧(妊娠高血圧症候群)
・流産や早産が起こる確率が高まる
・羊水が正常よりも多くなる(羊水過多)
・膀胱炎や腎盂炎などの感染症になりやすくなる
・胎児が大きくなりすぎること、高血圧などで帝王切開のリスクが高まる など

●胎児に与える影響

・赤ちゃんが正常よりも大きくなる(巨大児)
・赤ちゃんが大きく、出産時赤ちゃんの方がお母さんの恥骨に引っかかる(肩甲難産)
・生まれた後に低血糖になる(新生児低血糖)
・出生後に呼吸が苦しくなったり、黄疸が出たりする など

●その他

妊娠初期に糖尿病であり、血糖値が高いまま維持していた場合には胎児奇形の確率が高まります。

こんな人は要注意!

妊娠糖尿病になりやすい人にはいくつかの共通点があります。以下に当てはまる方は、妊娠糖尿病ではなくても、日頃の生活に気をつけたいですね。

こんな方は気をつけよう!

  • 妊娠前から肥満体型、妊娠後急激に体重が増えた
  • 35歳以上の高齢出産
  • 血縁者に糖尿病患者がいる
  • 妊娠高血圧症である
  • 自分自身が巨大児(4,000g以上)で生まれた
  • 原因不明の流産、早産を経験したことがある

妊娠糖尿病の診断方法

妊娠糖尿病と診断がつくまでには、まずスクリーニング検査が行われます。

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早期発見のためのスクリーニング検査

今、糖尿病と診断されてない方も、すべての妊婦さんはスクリーニング検査を受ける必要があります。このスクリーニング検査とは、選別検査ともいい、全ての人に同じ検査を行って疾患の疑いがある人を見つける検査のことをいいます。日本の産院の多くは、妊娠中期に「随時血糖」もしくは「50gGCT」(経口ブドウ糖負荷テスト)を行います。

●随時血糖

随時血糖とは、食事時間に関わらず採血をして得られる血糖値のことを指し、一定の基準(各施設で異なりますが概ね 95 もしくは 100mg/dL)を超えていないかどうかを確認します。

●50gGCT (経口ブドウ糖負荷テスト)

50gGCTでは、食事時間に関係なくブドウ糖50gを飲み、その1時間後に血糖値を測ります。こちらは、血糖値が140mg/dl以上であれば妊娠糖尿病の疑いがあると判断されます。
ちなみに、この50gGCT (経口ブドウ糖負荷テスト)で飲むブドウ糖は甘くて少し炭酸の効いた飲み物をイメージしてくださいね。

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中期検査で妊娠糖尿病が発覚したら

さて、妊娠中期でのスクリーニング検査にて、妊娠糖尿病の疑いがある…とされた場合には、どうしたらいいのでしょう。その場合には、75gOGTT(という妊娠糖尿病と診断するための検査を行います。

●75gOGTT(空腹時経口ブドウ糖負荷テスト)

この検査は朝食抜きで行う必要があるため、中期検査と一緒の日に行うことはできません。例えば24週ごろ中期検査を行った方は、2週間後の26週の妊婦健診時に中期検査結果を聞き、スクリーニング検査で陽性だった場合には、その場で75gOGTTの検査の予約を取り、再び病院で検査をします。
(※妊娠初期検査で妊娠糖尿病の可能性が高いと思われる方や、すでに既往歴などがありリスクが高い方は、中期検査結果を聞くタイミングで朝食を食べずに空腹で来てくださいと言われる場合もあります。これは75gOGTTの検査をより早く行い、初期の段階で発見することで早く治療できるようにするためです。)

75gOGTTの検査内容は、ブドウ糖75gを飲む前、飲んでから1時間後、そして2時間後の計3回、血糖値を測る採血を行います。


妊娠糖尿病の診断基準

75gOGTTの3つのタイミングの採血結果をみて、空腹時血糖が100mg/dl以上、1時間値血糖が180mg/dl以上、1時間値血糖が150mg/dl以上のうち、1項目以上の数値を超えていれば「妊娠糖尿病」と診断されます。
検査結果は当日もしくは、次回の妊婦健診時には知ることができます。もし、妊娠糖尿病と診断されても、しっかりと治療を受ければお母さんや赤ちゃんに大きなトラブルが起きることはありませんので、不安になりすぎないでくださいね。


妊娠糖尿病と診断されたときの治療は?

妊娠糖尿病の方は、2つの方針で治療を行います。まず1つ目は、食事療法や運動療法などのセルフケアで血糖値コントロールをしていく方法です。これは、妊娠糖尿病と診断されていない妊婦さんにとってもいいことなのでぜひ読んでくださいね。
もう1つはインスリン製剤という血糖値を下げる作用のある薬を自己注射して血糖値をコントロールする方法です。

セルフケア
●食事療法

まず食事療法についてですが、妊娠糖尿病に限らず、どんな妊婦さんでも摂取カロリーを考えて食事を摂ることは大切です。
もともとの体型や、妊娠糖尿病の重症度にもよりますが、一般的には

妊娠していないときの標準体重(㎏) × 30kcal
+ 妊娠期間ごとの追加カロリー(kcal)
└妊娠初期(~15週)    50kcal
└妊娠中期(16~27週)   250kcal
└妊娠後期(28週〜)    450kcal

これが摂取カロリーの目安です。それに加えて
・主食と副食のバランス
・食事の回数・分量を分けて分割食にする
・食物繊維を積極的に摂る
などが大切なポイントです。妊娠糖尿病になったからといって炭水化物を減らす必要はありません。何事もバランスが大切です。
カロリーの高さや炭水化物という理由で食事を選択するよりも、血糖値の上がり方を表すGI(Glycemic Index,GI値)が低い食べ物を選択したり、GI値が低い食べ物から優先的に食べるなどの工夫も血糖コントロールには有効です。

●運動療法

血糖を消費するという点で、運動は血糖コントロールにつながる効果があります。食後、血糖値がピークになる1~2時間後を目安に、有酸素運動(緩やかに呼吸しながら長時間行える運動)をすると、より効果的です。
しかし、切迫早産の方など妊娠の状況によっては運動ができないこともあります。運動療法を検討する場合、まず医師や助産師に相談してから行うようにしましょう。妊娠中の運動の注意点などはまたこちらのコラムでご紹介しています。

●インスリン療法

目標血糖値は明らかな医学的根拠はありませんが早朝空腹時血糖≦95mg/dl、食前血糖値≦100mg/dl、食後 2 時間血糖値≦120mg/dlが目安とされることが多いです。※5
食事や運動などのセルフケアでこの目標に達しない時には、インスリン製剤を用いた投薬も検討されるでしょう。糖尿病の治療薬として飲み薬もありますが、妊娠中の糖尿病の薬物療法には、飲み薬ではなく原則としてインスリンを使用します。
飲み薬は、胎盤を通って赤ちゃんに移行してしまう可能性が指摘されているからです。針を自分で指すインスリン注射は少し怖いですが、より安心で確実な治療を行うために、一緒に頑張りましょう。


低血糖症状には注意

最後に、人間は高血糖よりも低血糖の方が怖いと言われています。過度な食事制限や運動、インスリン療法中は低血糖になることがあります。

低血糖症状

低血糖になった時には、冷や汗、手足の震え、動悸や生あくび、力が入らないなどいつもと違う症状が出ます。

低血糖のときの対応
低血糖症状が現れた時には、以下の対応をすぐにとりましょう。

  • 何よりもまず糖分を摂取(お砂糖がベター)
  • 周りにいる人に伝える
  • 治療中の方はかかりつけ病院へ連絡

いかがでしたか?日本は他国と比べても妊娠中の検診が整っている国です。だからこそ早期発見できる病気もたくさんあります。
妊娠中期に調べる妊娠糖尿病もその一つ。検査はどれも緊張すると思いますが、ママと赤ちゃんのために私たちもできる限りのサポートをしたいと思っています。不安なことや分からないことはぜひかかりつけの病院に聞いてくださいね。
また、気になることはXで「#ミッドワイフコール」をつけてご質問ください。みなさんからの疑問・質問をお待ちしています。

参考文献

※1 板橋家頭夫他,新しい在胎期間別出生時体格標準値の導入について,日本小児科学会雑誌, 2010

※2 すこやかな妊娠と出産のために,厚生労働省,2022/2/10閲覧,
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken10/

※3 Cunningham FG,et al.Williams Obstrics,2005

※4 糖尿病と妊娠に関するQ&A,日本糖尿病・妊娠学会,2022/2/10閲覧,
https://dm-net.co.jp/jsdp/qa/

※5 平松祐司他,糖尿病・妊娠糖尿病合併妊娠 産婦人科ホルモン療法マニュアル,産科と婦人科,2008


記事を執筆したのは…

株式会社With Midwife
代表取締役

岸畑 聖月
きしはた みづき

PROFILE

14歳の闘病の経験から助産師を志す。学生時代に起業を経験し、助産学・経営学を学ぶため京都大学大学院医学研究科に進学。
卒後は助産師として年間約2,000件のお産を支える総合病院に勤務。その後病院の外でもケアが重要と感じ、2019年株式会社With Midwifeを創業。企業に助産師を導入する顧問助産師サービス「The CARE」などを展開する。
現在も病院で勤務しながら、株式会社赤ちゃん本舗や信州大学との連携プロジェクトを統括するほか、公益財団法人大阪産業局で女性起業家支援にも従事。また内閣府主催少子化社会対策大綱における検討会やこども家庭庁に関する大綱創設に関する検討会に有識者として出席している。
W/Storyの全記事を株式会社With Midwifeが執筆・監修。

本記事のイラスト:Junphant

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