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【助産師監執筆】妊娠34週
完全母乳、混合栄養、完全ミルクを徹底解説!
自分に合った方法を考えてみよう


妊娠34週に入りましたね。今回も赤ちゃんとママの様子をみていきましょう。※1,2,3
この時期の赤ちゃんの体重は1700~2700g程度と個体差が大きい時期ですね。身体だけでなく、手や足にも皮下脂肪がついて、さらに可愛らしくなってきます。身体は胎脂(たいし)と呼ばれる白いクリーム状の脂で覆われています。胎脂は産まれてからも赤ちゃんの皮膚の保護に役立ちますので、無理に落とさないようにしてくださいね。
またお母さんの子宮も大きくなり、胸の下くらいまでの大きさになってきます。出産の時の出血に備えて身体は血液量を増やしていきます。しかし、赤血球などの増加よりも水分量の増加が著しく、水で薄められたような状態になるため、貧血になりやすいです。意識的に鉄分や水分摂取を行っていきましょう。そして乳房も産後の授乳に向けて準備が始まっています。乳頭に汚れが溜まりやすい時期になりますので、入浴時などはお湯で優しく流してあげましょう。

今回は授乳についてのお話です。ママと赤ちゃん、家族に合った授乳方法を考えてみましょう。

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  • 授乳は自分に合った方法を選ぼう
  • 完母、混合、完ミそれぞれに良さがある
  • 母乳栄養が適さない場合もある
  • 災害時の授乳方法

自分に合った授乳方法を選ぶ事が大切

授乳方法は大きく分けると完全母乳・混合栄養・完全ミルクの3パターンに分かれます。しかし、ママと赤ちゃんの身体の状態、家庭環境やサポート体勢、授乳に対する想いなどによって混合栄養を選択してもその方法は様々で十人十色です。
3パターンそれぞれにメリットやデメリットがあるので自分に合った方法や興味が持てる方法を選択してみましょう。もちろん今とは違って、産後に授乳を行う中で状況や気持ちが変化する場合もあります。そんな時は無理せず、別の方法を選択することも可能です。中には、希望とは異なる授乳方法を選択しなければならないこともあるかもしれません。
また一度決めても、赤ちゃんの成長過程で変わることもあるかもしれません。どの授乳方法が一番良いということはありませんので、その時の赤ちゃんとママに合った方法を助産師など専門職と相談しながら選択していきましょう。


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完全母乳・混合栄養・完全ミルクにはそれぞれメリットがある※4,5

栄養面、育児分担、経済面、外出時の利便性など、3パターンそれぞれにメリットがあります。完全母乳、混合栄養、完全ミルクそれぞれの特徴を見ていきましょう!

1.完全母乳
完全母乳は母乳のみの栄養方法です。搾乳したものを哺乳瓶で飲ませても、母乳栄養には変わりありません。

メリット

  • 免疫物質が多く含まれているため、感染症予防になる
  • 知覚と認知の発達が促される
  • 消化が良く便秘予防になる
  • 卵巣がんや乳がんのリスクが減る
  • 子宮の戻りが促される
  • 赤ちゃんとの愛着形成が進む
  • 準備や片付けが不要
  • ミルク代がかからないため経済的である

デメリット

  • 腹持ちが悪いため頻回授乳が必要になることが多い
  • 飲んでいる量が分かりにくい
  • ママの食事に配慮が必要
  • ママしか授乳できない
  • 哺乳瓶を使えなくなる可能性があるため預けるハードルが高い
  • 乳房や乳頭トラブルが起こる可能性がある
2.混合栄養
母乳とミルク(人工乳)の両方を与える授乳方法です。毎回母乳とミルクを半分ずつ与える方法もあれば、日中は母乳のみで夜間のみミルクを補足する方法など、そのバリエーションは様々です。産後初期の母乳分泌量が少ない時期に多くの方が選択する方法です。

メリット

  • 母乳の分泌量に合わせてミルクの量を調整できる
  • 外出時など様々な状況に応じて選択する事ができる
  • 母乳はママ、ミルクはパパなど役割分担できる
  • 母乳とミルクのメリットのいいとこ取りができる
  • 災害時にも状況に応じて選択できる

デメリット

  • 両方行うため片付けを含め、授乳に時間がかかる
  • ミルクの補足量が分かりにくい
  • 乳房や乳頭のトラブルが起こる可能性がある
3.完全ミルク
完全ミルクはミルク(人工乳)のみの栄養方法です。妊娠中から完全ミルクを希望する場合は産後に乳房のトラブルを予防するために、母乳の分泌を抑える薬を内服するケースが多いです。事前に決めている場合は、妊婦健診などで医師や助産師に伝えて産後の乳房ケア方法について相談しておくと安心ですね。

メリット

  • 赤ちゃんが飲んだ量が分かりやすい
  • 腹持ちが良いため母乳より授乳間隔が空けやすい
  • 家族の協力を得られやすい
  • 母乳栄養では不足しがちな栄養素も入っている
  • 乳腺炎などの乳房トラブルにならない
  • 断乳や卒乳の悩みがない
  • ママの体調などに左右されず授乳ができる

デメリット

  • 経済的に負担がある
  • 哺乳瓶の準備や片付けなどの手間がかかる
  • 外出時の荷物が多くなる


ミルクの温度に要注意!70度以上は厳守※6,7

ミルクの粉は一度沸騰させた70度以上のお湯で作ったお湯で溶かします。熱々のミルクを人肌の温度まで冷ますのは大変かもしれません。しかし、70度以上のお湯でミルクを作ることには、粉ミルクの中にある病原菌を殺菌する目的があります。
粉ミルクやミルクは無菌ではなく、ごく微量に「サカザキ菌」や「サルモネラ菌」が入っていることがあります。
サカザキ菌は、特に乳幼児の髄膜炎や腸炎の発生に関係しているとされています。感染した乳幼児の20~50%が死亡したという事例の報告もあります。また、死亡に至らなかった場合も、神経障害等重篤な合併症が継続するとされています。
サルモネラ菌は、チフス性疾患や食中毒を起こすものなど数多くの種類があります。粉ミルクを開封した後、粉ミルクを溶かすときや溶かした後に混入することがあるといわれています。 サカザキ菌とサルモネラ菌は乾燥した粉ミルクの中で長期間生存できます。また、溶かした後の粉ミルクの中では、5度以下を保つことで増殖を抑えることができます。しかし、5度以上(室温)で置かれた場合、急激に増える️恐れがあります。

ミルクを作る際の適切な方法

  • 粉ミルクを作る前に、手を石けんと水で洗う
  • 哺乳ビンやスプーンなど、使用する器具はよく洗い、消毒する
  • 粉ミルクを溶かすときには、70℃以上のお湯を使う
  • お湯で溶かした粉ミルクは、流水にあてるか冷水又は氷水の入った容器に入れて、授乳できる温度まで短時間で冷やす
  • 溶かした後、2時間以内に使用しなかったミルクは捨てる
  • 飲み残しのミルクは捨てる

母乳栄養が適さない場合も※8

母乳の中にはIgAという免疫成分が多く含まれ、ママが授乳中に風邪をひいた場合にも、一般的な風邪の場合には母乳からウイルスが出ることはありません。しかし、内服する薬剤によっては母乳栄養を行わない方が良い場合もあります。授乳中に病院受診し、薬を処方してもらう場合は必ず授乳中であることを伝え、授乳を継続して良いのか、搾乳して破棄した方が良いのか確認を行いましょう。
また、上記で“一般的な風邪の場合”と示したように、まれにママの母乳を通じて感染してしまうウイルスもあります。母乳育児からウイルスが感染することが証明されている感染症はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)やHTLV-1(成人T細胞白血病ウイルス)、CMV(サイトメガロウイルス)です。完全ミルクが良い感染症もあれば、搾乳して凍結後に与えられる場合もあります。医師や助産師と相談して授乳方法を検討しましょう。


お風呂上がりの水分補給※9,10

赤ちゃんにとっての入浴は体力を使い、汗をかいた分の水分を失います。そのため、なるべく短い時間で入浴させ、お風呂上りの水分補給がとても大切になってきます。
お風呂上がりの水分補給について、ひと昔前は白湯や果汁といわれてきました。しかし、現代では母乳やミルクでよいとされています。
母乳であれば、欲しがる時に欲しがる量を与えるのが基本ですので、母乳に含まれる栄養と一緒に水分が補えます。
ミルクであれば、3時間に1回と時間が決まっていますので、哺乳時間の間にお風呂に入るのがよいでしょう。
もし、離乳食が始まって、お風呂に入る前後に授乳をしていない場合は、白湯や麦茶を選んで構いません。
果汁については、生後6ヵ月未満の乳児に果汁を与える栄養学的な適用はないとしています。また、歯が果汁の中に含まれる糖分に長時間さらされることは、虫歯の原因になりかねません。 また、ジュースなどに含まれている糖分は少なからず依存性がありますので、離乳食を食べなくなってしまったり、保育園に通い始めて麦茶や白湯を飲めなくなったりする場合もあります。離乳食が始まって、母乳やミルク以外を与える場合は、白湯や麦茶を選ぶようにしましょう。


災害時の授乳方法も考えて準備しておこう※11

母乳栄養の場合はすぐに母乳が止まってしまうということはありませんが、ストレスや食事、睡眠が取れなかったりと環境の変化で一時的に、又は徐々に母乳量が減少してしまうことも予測されます。そんな時に使用できるよう、ミルクも少量準備しておくと安心ですね。
その際、哺乳瓶は消毒が難しく衛生が保てない場合があったり、70℃以上のお湯を準備することが難しいかもしれません。液体ミルクであれば常温で保管でき、そのまま缶や紙パックに専用の乳首をつけて飲ませることが出来るので衛生的です。乳首は少し多めに持っておくと良いでしょう。
その他、紙コップにミルクを注いで少しずつ飲ませる方法やスプーンで口に運ぶ方法もあります。ミルクは最低3日分は準備しておきましょう。

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いかがでしたか?授乳は育児の中でも多くの時間を使いますし、幸せな時間にもなれば、悩みの種になることもあります。授乳時間がママと赤ちゃんにとって心地よい時間になるように、妊娠中からイメージを膨らませたり、様々な方法について知っておく、準備をすることが大切です。どの授乳方法が自分に合うか分からないという方は病院の医師や助産師に相談してみてくださいね。

また、気になることはXで「#ミッドワイフコール」をつけてご質問ください。みなさんからの疑問・質問をお待ちしています。

参考文献

※1 胎児計測と胎児発育曲線について ,日本産科婦人科学会周産期委員会,2022/6/7閲覧,
https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/PUB/ninken/jsog_20111024.pdf

※2 株式会社ベビーカレンダー,最新 妊娠・出産オールガイド,新星出版社,2021

※3 荻田和秀,最新改訂版らくらくあんしん妊娠・出産,学研プラス,2021

※4 授乳や離乳について,厚生労働省,2022/6/7閲覧,
https://www.mhlw.go.jp/stf/ninpu-02_00001.html

※5 ICM,所信声明 母乳育児,日本助産師会,2022/6/7閲覧,
https://www.midwife.or.jp/user/media/midwife/page/kokusai-katsudo/2017belief_expressed_05.pdf

※6 育児用調製粉乳中のEnterobacter sakazakiiに関するQ&A(仮訳),厚生労働省.2024/3/21閲覧,
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/050615-1.html

※7 粉ミルク(乳児用調整粉乳)を70℃以上のお湯で溶かすワケを知っていますか?,横浜市,2024/3/21閲覧,
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/eiken/hokenjoho/wadai/milk.html

※8 第35回母乳育児中の病気について,こども相談室,千葉県小児科医会,2010,2022/6/7閲覧,
https://www.chiba.med.or.jp/general/millennium/pdf/millennium35_14.pdf

※9 小児歯科疾患,慶応義塾大学病院医療・健康情報サイト,2024/03/25閲覧,
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000168.html

※10 沐浴後の母乳やミルクは必要?適切な時間や目安の量を知っておこう,teniteo,2024/03/25閲覧,
https://teniteo.jp/c01/m001/myw71

※11 赤ちゃん防災プロジェクト 災害時における乳幼児の栄養指導の手引き 2019年3月版, 日本栄養士会,2022/6/7閲覧,
https://www.dietitian.or.jp/news/upload/images/b92b1745e54bfd38249c741e3026cf4afd45fbd0.pdf


記事を執筆したのは…

株式会社With Midwife
代表取締役

岸畑 聖月
きしはた みづき

PROFILE

14歳の闘病の経験から助産師を志す。学生時代に起業を経験し、助産学・経営学を学ぶため京都大学大学院医学研究科に進学。
卒後は助産師として年間約2,000件のお産を支える総合病院に勤務。その後病院の外でもケアが重要と感じ、2019年株式会社With Midwifeを創業。企業に助産師を導入する顧問助産師サービス「The CARE」などを展開する。
現在も病院で勤務しながら、株式会社赤ちゃん本舗や信州大学との連携プロジェクトを統括するほか、公益財団法人大阪産業局で女性起業家支援にも従事。また内閣府主催少子化社会対策大綱における検討会やこども家庭庁に関する大綱創設に関する検討会に有識者として出席している。
W/Storyの全記事を株式会社With Midwifeが執筆・監修。

本記事のイラスト:Junphant

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